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自分のことのように懐かしい(伊藤左千夫著「落穂」)

ほんの数日前まで帰省していた人も多いと思うので、それに関係した作品を。

伊藤左千夫著「落穂」です。

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伊藤左千夫 落穂(青空文庫)

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情景描写が鮮やか

千葉を出る時に寒い風だなと思ったが、気がついて見ると今は少しも風はない。鮮明な玲瑯な、みがきにみがいたような太陽の光、しかもそれが自分ひとりに向かって放射されているように、自分の周囲がまぼしく明るい。

作品全体を通して景色が目に浮かぶかのような描写が印象的です。この作品は都会から田舎の村へ帰省するというシンプルな話なんですが、その懐かしさがまるで自分のことのように感ぜられるほどです。

最近は味気ない文章ばかり読んでいたせいか、こういう文章に触れると心が強く揺さぶれる感じがあります。

 

若いころのうぶな恋愛模様

主人公は神社の落書きから自分の恋愛を、お菊との恋愛を思い出します。

自分はわれを忘れてしばらくそえを見つめておったが、考えて見ると当時女から「消してください、後生だから消してください。」といわれて自分がそれを消したように覚えてる。まったく夢のようで夢ではない。

 よく親兵衛の家にお菊目当てで通ったことが思い出され、それが鮮明に綴られています。お菊のことははじめて“情を交わした”異性であると語られていますが、この情を交わすとは性交渉をするという意味の文学的・婉曲的表現です。最近は情緒もない言い方がされますが、これくらいの雰囲気を持った言葉のほうが僕は好きです。

 

正岡子規の弟子

伊藤左千夫(いとう さちお)[1864-1913]は歌人、小説家です。「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」で有名な正岡子規に師事にしていました。

代表作である「野菊の墓」も青空文庫で読むことが出来ます。機会があれば紹介しますね。

伊藤左千夫 野菊の墓(青空文庫)

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