亡妻との思い出がしみる(寺田寅彦著「どんぐり」)
どうも、ジョンです!
寺田寅彦を読むにも青空文庫は雑然としすぎているので、選ぶ基準が面白そうな題名しかないのが少し気になって、他の寺田寅彦随筆集に収録されているものを目次だけ確認して探せばいいのではと思い至りました。そういうわけで、まず読むのは参考にした随筆集のトップである「どんぐり」です。
「どんぐり」概要
Amazonの内容紹介には次のように書いてあります。
今は亡き妻の病状が末期でありながら身重だった頃について中心に綴られている。病状が少し回復し、植物園へ出かけた帰りの散歩道、無邪気にどんぐりを拾い続けた妻。その妻の忘れ形見である子供が、同じように無邪気にどんぐりを拾う姿を見ながら筆者がもの思いに耽る様で締めくくられている。
いままで僕が読んできたのは考察系のものばかりでしたが、「どんぐり」は亡き妻との思い出話です。
寺田寅彦はこの時22歳の大学生で、その妻は17歳。病状はよくなっていると書いていますが、寺田寅彦の父親の指示で寺田家のある高知県で療養することが決まっており、植物園(小石川植物園)はその前の思い出づくりだったと言われています。
愛を感じる
植物園でどんぐりをハンカチいっぱいに拾って「だって拾うのがおもしろいじゃありませんか」と言っていた寺田寅彦の妻。
そこに今度は自分の子どもと来た寺田寅彦は、うれしそうにどんぐりを拾う我が子に妻の面影を見ます。そして、こう随筆を締めるのです。
余はその罪のない横顔をじっと見入って、亡妻のあらゆる短所と長所、どんぐりのすきな事も折り鶴のじょうずな事も、なんにも遺伝してさしつかえはないが、始めと終わりの悲惨であった母の運命だけは、この子に繰り返させたくないものだと、しみじみそう思ったのである。
植物園に行った日のことを寺田寅彦はよく覚えていて、かなり鮮明に描写しています。よほど記憶に強く刻み込まれていることが、はっきりとわかって、愛とともに深い悲しみも感じます。
この随筆は寺田寅彦の随筆のなかでも特に人気があるそうで、随筆集のトップにくる理由もうなずけます。