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恋愛って難しい(佐佐木茂索著「ある死、次の死」)

どうも、ジョンです!

2017年にパブリックドメインとなり作品が公開された中から、佐佐木茂索の「ある死、次の死」を読みました。当然のようにネタバレするので、読まれる方はお先にどうぞ。

 

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佐佐木茂索 ある死、次の死(XHTML)

ある死、次の死(Kindle)

 

 

佐佐木茂索とは?

佐佐木茂索(ささき もさく)は、小説家であり編集者でもありました。小説家としては芥川竜之介に師事。編集者としては文藝春秋の総編集長、後に社長として活動し、芥川賞及び直木賞の創設にも携わりました。

 

孝一郎はなぜ自殺したのか?

「ある死、次の死」では、隆治の学校の生徒で隆治夫妻と懇意にしていた孝一郎が服毒自殺をします。ちなみに飲んだ毒はストリキニーネという猛毒で、口にした瞬間吐き気を催すほどの苦味がするんだとか。

 

さて孝一郎は、最後まで読めばわかるように隆治の妻、綾子と不倫関係にありました。しかしおそらくは肉体的関係はなかったように思われます。

隆治が病床で

お前なぜキスしてやらなかったのだい。去年来たときさ。

名古屋まで遊びに来たらキスしてあげるて書いてやつたのだらう?……姉さんは嘘吐きです。……か。あの手紙では山添少し怒るてゐたね。それからあの遺書だね…………おい……

と言ってることから、キスを引き合いに出せる段階。つまりキスすらまだであったと言えるでしょう。

 

ここで隆治は「それからあの遺書だね」と言っており、孝一郎はこれが原因で自殺した風に見えます。また孝一郎は亡くなる直前、母親との会話で綾子と当分会えないことを確認しています。

 

とはいえそれで自殺するほどのことでしょうか。読み逃しでなければ不倫であること、実らないことは孝一郎もわかっていたはずですが……

綾子の思わせぶりな態度と、孝一郎の過度な純情さが不幸をまねいたのかもしれません。

隆治はどういう気持ちだった?

読者に対して孝一郎と綾子の関係が提示されるのはラスト。しかし隆治が確認したのは、おそらく孝一郎の遺書であったと思われます。

今迄天井を凝と見つめてゐた隆治は、
「お前が声楽が好きだから、山添も声楽を習ひ始めたと、あの手紙には書いてあつたね。」
 右の手で額の氷嚢が目の上にづりかけるのを止めながら、さう綾子に云ひかけた。綾子は、これで三度目だつた。
「えゝ。」
 さう答へるより仕方がなかつた。

さてこの部分。「綾子は、おれで三度目だつた。」ですが何が三度目だったのでしょうか。普通に考えて孝一郎が綾子に対し、こう切り出すのが三度目というのが妥当でしょう。

 

妻の不倫を三度も確認する夫は、怒っているのでしょうか?

 

しかし孝一郎は隆治も懇意にしていた人間であり、その死は隆治にも少なくないショックを与えたはずです。そしてこの場面は隆治が肺炎で亡くなるかもしれない状況。

 

好意的に解釈すれば、隆治は「もし孝一郎が生きていたら、綾子が孝一郎にキスの一つでもしてやってれば、俺が死んだ後も綾子は孝一郎が幸せにしてやってくれたかもしれない」という感じでしょうか。

 

この作品、恋愛経験の差で読者の受け取り方にかなり差が出るような気がします。あなたの解釈も教えて頂けると幸いです。それでは!