明暗の正月と戦争(岡本綺堂著「正月の思い出」)
あけましておめでとうございます。本年も相変わりませずよろしくお願いいたします。
新年を迎えたので三が日に紹介するのは正月に関する作品です。
最初の作品は岡本綺堂著「正月の思い出」。
岡本綺堂 正月の思い出(青空文庫)
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岡本綺堂とこの作品について
岡本綺堂(おかもと きどう)[1872-1939]は小説家及び劇作家です。とくに新歌舞伎の作者として知られています。記者として新聞社に勤めていた時期もあるようですね。
この作品は岡本綺堂氏が正月の思い出を聞かれて、日清戦争がはじまって最初の正月を迎えたときの暗い思い出を思い出すという話。まったく読んでから新年一発目には向かないなと思いましたが、読んでしまったものは仕方ない。
明るい戦時中
海陸ともに連戦連捷、旧冬の十二月九日には上野公園で東京祝捷会が盛大に挙行され、もう戦争の山も見えたというので、戦時とはいいながら歳末の東京市中は例年以上の賑わしさで、(中略)こんなに景気のよい新年は未曾有であるといわれた。
戦争といえば日本の敗戦が印象深いので、押せ押せの楽しい時期があったというのはぱっと思いつきにくいものです。戦争と活気を結びつけて考えるのも今やご法度という空気がありますから、それも仕方がないのかもしれません。
現代の心構えは別として、歴史的事実として戦争と活気というのは僕にとって面白い視点でした。木暮理太郎氏の「登山談義」でお話したように、人間のモチベーションは面白みや楽しさという良い記憶があるから湧いてくるもの。良いか悪いかという話ではなく、戦争へのモチベーションがこういうところにも有ったのだなと考えるのです。
暗い思い出と明るい思い出
同じ日に二つの思い出、人の世には暗い思い出が多い。
著者は一つの正月に二つの暗い思い出を抱えます。それを踏まえて人生には暗い思い出が多いなあと感じるわけです。さらにそれを見て人間の思考はバイアス(偏り)なしにはありえないのだなと思います。
僕は著者の人生を知りません。しかし正月はこの一回よりも多く経験していることは間違いないでしょう。そこには楽しい思い出も少からずあったはずなのです。ただ著者はこの大きな暗い思い出があることで他の明るい思い出への考えはいたらず、“暗い思い出が多い”とこぼすのです。
一つ視点を変えてみれば同じ人生がネガティブにもポジティブにも映るのだなと再認識できました。新年がいい年になるかは自分の心構え次第ですね。