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アメトーークじゃないよ(フランツ・カフカ著「断食芸人」)

◯◯芸人というフレーズを見ると、バラエティ番組「アメトーーク!」が浮かんでくるのは僕だけではないはず。どの作品を読むかなと一覧を眺めているときこの作品を選んだのも、そのアンバランスさが妙に面白い印象を起こさせたからでした。

今回の作品は、フランツ・カフカ著「断食芸人」です。

当然のことながらネタバレを含むのでご注意を。

 

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フランツ・カフカ 原田義人訳 断食芸人(青空文庫)

Amazon.co.jp: 断食芸人 電子書籍: フランツ カフカ, 原田 義人: Kindleストア

 断食芸人

断食芸人とはその名の通り一定の期間檻に入って断食をする芸人のことです。作中では断食の興行が流行っている時代から、やがて廃れていきます。人気者の断食芸人が抱える不満、廃れてから彼が断食芸人を続ける理由が語られていきます。

 

自分を評価するのは自分だけ

作中の芸人は最大40日間の断食興行をします。彼が入る檻には見張りがつけられますが、監視は交代で行われるので誰も彼が途中でズルをしていないとは確信できません。

ただ断食芸人自身だけがそれを知ることができた。だから彼だけが同時に、自分の断食に完全に満足している見物人であることができるのだった。

現実の現代においても人が人を評価するのは非常に難しいですよね。自分のあらゆる側面をあらゆる時と場所において見ているのは自分自身以外いません。逆に人は他人についていつでも正当に評価することはできないと言ってもいいでしょう。だからこそ信頼関係が人間関係には不可欠だと僕は思いました。

 

 夢のない人生

物語終盤、サーカス小屋で人に忘れられほどの年月断食を続けた芸人はサーカスの監督にいいます。自分は人に感心してほしいが自分に感心してはいけない、と。なぜなら。

「おれは断食しないではいられないだけの話だからだ。ほかのことはおれにはできないのだ」(中略)「うまいと思う食べものを見つけることができなかったからだ。うまいと思うものを見つけていたら、きっと、世間の評判になんかならないで、きっとあんたやほかの人たちみたいに腹いっぱい食っていたことだろうよ」

個人的な解釈ですが、“うまいと思う食べもの”は夢や目標だと思います。 彼は自分の人生における目標が見つけられなかったのではないでしょうか。だからできること=断食をして生きてきたのです。

これも現実に置き換えてみます。これといったやりたいこともない中で、自分のできる仕事につく。もちろんそれは間違った選択ではありません。しかしいつまでもできることしかせず、目標を見つけられずにいると、いずれ時代に置いて行かれて消えゆくと考えることもできます。

 

この解釈はあくまで一回読んだ自分のものにすぎません。何度も読んだり、人生の異なる場面で読むことで違った視点の見えてくる名著だと感じました。おすすめです。