マズ・ヨンデネ(太宰治著「ダス・ゲマイネ」)
「ナナマルサンバツ」というクイズ漫画のなかで、目立たない主人公がクイズで脚光を浴びる場面があります。その時出されたクイズが「『恋をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであった』という一文で始まる太宰治の小説のタイトルは?」。
その答えが太宰治著「ダス・ゲマイネ」です。
太宰治 ダス・ゲマイネ(青空文庫)
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ダス・ゲマイネ
恋をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであった。
素晴らしい小説は書き出しが違います。この一文だけで作品に対する期待感が一気に高まり、読者をその世界観にぐっと引き込む力がありますね。
さてあらすじ。この文章だけだとまるで恋愛小説が始まりそうです。しかし始まるのは主人公の佐野次郎と饒舌な変人である馬場とのやり取りがほとんど。そこに佐竹と太宰も加わって、みんなで同人雑誌を作ろうとするけど作らない、みたいな話です。
みんなそれぞれ深いことを言っているようで言っていないような、共感できるようでできないような会話が魅力だと思います。
後述する又吉直樹著「火花」と雰囲気が似ているので、読んだ方はそういう雰囲気を思い浮かべてもらえると近いと思います。あくまで雰囲気ですが。
又吉直樹、森見登美彦を思い出す
芥川賞を受賞し注目を集めた又吉直樹著「火花」。著者の又吉直樹氏は熱心な太宰治のファンで、この前CSを見ていたら彼が太宰作品について一つ一つ語る番組がやっていたことには驚きました。とにかくそれくらいのファンともなると、やはり作品に影響が色濃く出てるなと感じます。なぜなら「火花」に出てくる神谷と「ダス・ゲマイネ」の馬場は印象がとにかく被るからです。実績のない大物感というか変人感というか。
一方で森見登美彦も思い起こさせます。森見登美彦は山本周五郎賞を受賞した「夜は短し歩けよ乙女」が有名ですね。彼の作品には堕落した大学生が多く登場しますし、また森見登美彦という人物が登場することもあります。その辺り非常に「ダス・ゲマイネ」と近いのではという印象をうけました。
今を生きる作家に大きな影響を残していると思われる太宰治の力を、ここにやはり感じますね。
考察の多さ
やはり大作家ともなると、作品を読む人もそれにともなって考察する人も増えます。「ダス・ゲマイネ」で検索しただけでも感想や考察をしているサイトがいくらでも見つかるので、読んだあとにそういうページを巡回するのもまた一興です。