軽くない深夜のメンヘラツイート(北条民雄著「井の中の正月の感想」)
新年3日目は家でゴロゴロできました。非常にゆっくり休めたはずなのに、体調としてはむしろ多少の忙しさや人との交流を持った方が、かえって良くなるように思います。
さて三が日企画の最後は北条民雄著「井の中の正月の感想」です。
北條民雄 井の中の正月の感想(青空文庫)
Amazon.co.jp: 井の中の正月の感想 電子書籍: 北条 民雄: Kindleストア
ハンセン病作家
北条民雄(ほうじょう たみお)[1914-1937]は作家です。当時非常に差別の強かったハンセン病を1933年に発症し、その後ハンセン病患者の収容施設に入ってから本格的に作家業を始めます。
その作品は隔離生活がもとになったものが多く、1936年には「いのちの初夜」で第二回文學界賞を受賞しました。
差別と迫害のなか、わずか23年で亡くなった彼の人生は23歳の自分ではとても想像もできないものです。
院内で迎える三度目の正月
かつて大海の魚であつた私も、今はなんと井戸の中をごそごそと這ひまはるあはれ一匹の蛙とは成り果てた。とはいへ井の中に住むが故に、深夜冲天にかかる星座の美しさを見た。
ハンセン病を発症し井の中の蛙であると罵られても、自分にはそれ故見える世界があると言うのです。一見ポジティブに見えますが、つよがりにも見えます。そう思わざるを得ないとも。
夢を持ち、夢に虐げられる
この正月は1937年のことで、その前年は著者が受賞した年でした。ならば苦しみの中でも喜ばしい正月になるのではとも考えられます。
一九三七年の私の苦痛はここから始まるのだ。
夢を有つたが故に夢に虐げられるとは、
――それなら苦痛が救ひだとでもいふのか!
僕の解釈では大きな賞を受賞したことで、次への期待が大きな重圧になっているのではないかと思います。作家としての大成は夢ですが、その重みに苦しんでいるのではないか、と。このあたりの解釈が自分には少しまだ納得できていません。
深夜のあるある
著者は最後にこう締めています。
新年早々、ろくでもない言葉を吐いた。もうこのやうな言葉は一切吐かぬことに定めた。さて私は仕事をしよう。それ以外に何がある。なんにもありはしないのだ。
実際背負っているものが重いので、あまりライトに表現するのもはばかられるのですが、ぶっちゃけ深夜のメンヘラツイートです。重さが段違いですが、系統としては同じかと思います。
人間、時折愚痴るのも必要なのかもしれませんね。